伊藤園、茶葉の全量を契約農園から調達 安定供給狙う

2023年01月19日 16:05
カテゴリ: 日記

日本経済新聞 2023年1月19日

食品メーカー各社が安定生産へ向けて原材料調達の見直しを進めている。伊藤園は2023年度にも国内で販売する緑茶飲料「お~いお茶」の主力商品で原料すべてを契約農園などで栽培した茶葉に切り替える。敷島製パンは30年までに国産小麦の比率を22年の14%から20%に引き上げる。農業の担い手不足や原材料調達の地政学リスクに備える。

伊藤園の「茶産地育成事業」では、契約農園のほか、耕作放棄地を再生した農園で栽培した茶葉を全量買い取っている。同事業で22年度(22年5月~23年4月)には16年度の2倍の8794トンの茶葉を生産する見通しで、お~いお茶の600ミリリットルペットボトルでは原料の約8割をまかなう。今後も契約農園の拡大で茶葉生産量が増える見通しで、23年度にも同商品の原料をすべて切り替えるという。

お~いお茶のほか、抹茶やほうじ茶商品などにも使っている。育てる茶葉の選定から出荷まで一貫して管理できるため、伊藤園の商品に適した茶葉が確保できる利点がある。茶畑では人工知能(AI)を活用してお茶の品質を評価したり、茶殻を肥料にしたりするなど生産性向上に向けた実証も進める。茶葉価格が上昇するなか、市場を通さず調達することで原材料費も抑えられる。

伊藤園は国内の緑茶生産量の約4分の1を取り扱っている。農林水産省によると、高齢化などで20年の茶の栽培面積は1985年から3割以上減った。自社の茶園を持たない同社は茶葉を安定調達する仕組みが欠かせない。茶産地育成事業は全量買い取りによって生産者の経営安定にもつながる。

「Pasco(パスコ)」ブランドで商品を展開する敷島製パンは2030年までにパンに使う原料の小麦の20%を国産にする方針だ。12年に国産小麦入り食パンの販売を始めたのを皮切りに、国産100%の商品を増やしたほか、輸入小麦を使った商品にも国産をブレンドするなどして比率を高める。


国産の比率を高める取り組みは08年に始めた。オーストラリアの干ばつなどで小麦の生産量が減少し、政府が輸入して製粉会社などに売り渡す価格は同年10月に最高値をつけた。当時パン向けの小麦はほとんど国内で栽培しておらず、北米からの輸入に依存していたため地政学リスクを抱えていた。

盛田淳夫社長が自ら北海道に赴き、パンに適した品種「ゆめちから」の栽培を農家に依頼した。20年度のゆめちからの流通量は約6万トンにまで伸びた。同社は生産者や研究機関と共同で収穫量の多い品種の開発などを続けている。

21年の国産小麦の収穫量は109万トンで、うち72万トンを北海道産が占める。同年の輸入量は512万トンだった。北海道以外の産地は収穫量が限られるのに加え、年によって収穫量や品質にばらつきのある場合も多く、安定調達の課題となっている。

ロシアによるウクライナ侵攻の影響で小麦価格が高騰した。パン向けの主力品種の北海道産「春よ恋」の23年産価格は1トンあたり8万6000円程度で、輸入小麦の売り渡し価格(平均7万2530円)を上回っている。地政学リスクや原材料費の急変動の影響を抑え安定調達につなげる。

国内の食品メーカーを取り巻く調達環境は厳しさを増している。世界の食料需要は人口増加に加えて新興国の経済成長で拡大が続く。足元ではエネルギーコストの上昇や国内での人手不足などもあり安定調達に向けて調達網の見直しが急務になっている。

ニチレイは21年に新型コロナウイルス感染拡大によりタイの生産拠点で人手を確保できずに日本で販売する鶏肉加工品の新商品供給を絞る事態に陥ったことを受けて、子会社の国内工場での生産を増やす検討を進めている。これまではタイや中国など海外生産が大半を占めていた。国内生産でコストは増加するものの、付加価値の高い商品をつくり、吸収する考えだ。

小売りではセブン―イレブン・ジャパンが22年4月から弁当など一部商品で使う鶏肉を国産に切り替えた。主にタイからの輸入品を使っていたが、新型コロナ禍での供給網混乱で品薄となり、21年秋に一部の商品が販売休止に追い込まれた。鶏肉以外でも一部商品の原料を国産に切り替えており、22年11月には国産小麦比率が9割以上のメロンパンとミルクフランスを発売した。

日本の食料自給率は21年度で38%(カロリーベース)で、多くを輸入に依存している1のが現状だ。一方、国内の農業従事者はこの5年で約2割減り、高齢化も進み担い手不足が深刻化している。円安が進めば輸入原料の調達コストも膨らみ、食品メーカーの利益を圧迫する。いかに原料を安定調達できるかが、成長を左右することになる。


【原材料の調達を見直す動きが広がる】

伊藤園

23年度にも緑茶ブランド「お~いお茶」の主力商品で茶葉 の全量を契約農園に切り替え

敷島製パン

国産小麦の比率を22年の14% から30年に20%へ

ニチレイ

鶏肉加工品の国内生産の拡大を検討

セブンイレブン・ジャパン

弁当など一部商品で使う鶏肉を国産に変更。国産小麦を 使ったメロンパンなども発売

吉野家

昨年4月から米国産米とのブレンドをやめ、国産米だけに

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