ノーベル生理・医学賞受賞者

オットー・ワールブルク博士

オットー・ワールブルク(Otto Warburg)は、1937年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。彼の受賞理由は、「呼吸酵素の性質と作用機序の発見」によるものです。具体的には、細胞がどのように酸素を利用してエネルギーを生成するかを解明した研究が評価されました。以下に、彼の研究内容をわかりやすく説明します。

研究のポイント

ワールブルクは、細胞呼吸(細胞が酸素を使って栄養素からエネルギーを作る過程)に焦点を当て、特にシトクロムオキシダーゼという酵素の役割を詳しく研究しました。この酵素は、細胞内で酸素を利用してエネルギーを生成する最終段階(電子伝達系)で重要な役割を果たします。彼は、以下の点を発見しました:

1.  細胞呼吸の仕組み:

•  細胞は、グルコースなどの栄養素を分解してエネルギーを得ます。この過程で、酸素が使われる「好気呼吸」が重要です。

•  ワールブルクは、細胞が酸素を使ってどのようにエネルギーを効率的に作り出すかを調べ、シトクロムオキシダーゼが酸素分子を受け取り、電子を運ぶ役割を持つことを突き止めました。

2.  酵素の性質:

・シトクロムオキシダーゼには、ヘム(鉄を含む化合物)が含まれており、これが酸素と反応することでエネルギーの生成を助けます。

・彼は、この酵素が特定の化学反応を触媒(促進)する仕組みを詳細に分析しました。

3.  実験手法の革新:

・ワールブルクは、細胞呼吸を測定するために「ワールブルク装置」と呼ばれる特別な装置を開発しました。この装置は、細胞がどれだけ酸素を消費するかを正確に測定できるもので、当時の研究に革命をもたらしました。

なぜ重要だったのか?

ワールブルクの研究は、細胞がエネルギーを生み出す基本的な仕組みを解明した点で画期的でした。この発見は、以下のような影響を与えました:

•  医学への貢献:細胞呼吸の異常は、がんや代謝疾患に関係しています。ワールブルク自身、がん細胞が異常な代謝(好気的解糖:酸素があっても乳酸を発酵させる)を行うことを発見し、後の「ワールブルク効果」として知られるようになりました。

•  生化学の発展:彼の研究は、酵素や代謝の研究の基礎となり、現代の生化学や分子生物学に大きな影響を与えました。

論文の概要

ワールブルクの受賞に関連する論文は、1920年代から1930年代にかけて発表された一連の研究に基づいています。特に、1926年の論文「Über den Stoffwechsel der Tumoren」(「腫瘍の代謝について」)や、シトクロムオキシダーゼの性質を詳述した論文が重要です。これらの論文では、以下のような内容が含まれています:

•  細胞呼吸における酵素の役割。

•  酸素消費量の測定結果。

•  がん細胞の代謝が正常細胞と異なる点(ワールブルク効果の初期報告)。

わかりやすく例えると

ワールブルクの研究は、細胞を「小さな工場」に例えるとわかりやすいです。この工場では、栄養素(原料)をエネルギーに変えるために、酸素という「燃料」が必要です。ワールブルクは、工場の中の「作業員」(シトクロムオキシダーゼ)がどのように酸素を使って効率的にエネルギーを作り出すかを解明しました。さらに、がん細胞という「不良工場」が、普通の工場とは異なる方法でエネルギーを作っていることも発見したのです。

補足

ワールブルクの研究は、現代でもがん治療や代謝研究の基礎となっています。彼の「ワールブルク効果」は、がん細胞がエネルギーを得るために異常な代謝を行うことを示しており、PETスキャン(がん診断に使われる技術)などに応用されています。